死に山:世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

死に山:世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相
(ドニー・アイカー著、安原和見訳、河出書房新社)

1959年2月、ソ連のウラル山脈の雪山で男女9人の若者が全員死亡する遭難事件が起きた。

捜索隊が発見した遭難の状況があまりに不可解だったのと、当時の冷戦下のソビエトの体制もあり事件は闇の中となった。

そしてソ連が崩壊し、インターネット時代となってから、この事件は再度脚光を浴びることとなる。

過去の不可解な事件で情報が少ないこともあり、雪崩説から始まって野生動物や現地人による襲撃とか、果てはUFO犯人説や軍事機密による隠蔽説まで飛び交った。

この事件を知り、大いに興味を持った著者はロシア現地に赴き、今も残る関係者の証言や資料を丹念に追跡し、ついに自然現象から謎を解明する新説を打ち出す。

本のタイトルからして「トンデモ本」の類かと思ってしまうが、実際には逆で、むしろ懐疑主義的というか常識的な解釈を淡々と積み上げていく感じ。

そして達した最終説明は、自分としては完全に納得できない部分もあるが、なかなか良く考えられているとは思う。

当時のソ連の学生生活の実際や、地方への旅行風俗などにも興味深く触れることができる、たいへん良質なドキュメンタリー作品。

*ディアトロフ峠事件(Wikipedia)

深夜特急

深夜特急

深夜特急
沢木 耕太郎 新潮社 1986(第1便・第2便)~1992(第3便)

一連の貧乏旅行モノ、ヤラセTV番組によって存在が有名になったような気がする。

所謂「バックパッカー」のバイブル的な本であるが、私にとってはバイブルというより、もっと同時代的存在で、 一時の自分の未完の旅を代弁してくれているような近しさを覚える。

普通、この手の旅本では、インドあたりが一番面白いものだが、沢木のこの旅では「第一便・黄金宮殿」の香港から東南アジアが圧倒的に面白い。
マカオでのギャンブルのくだりは本当に面白い境地にはまっている。

全体にいえるのは、この深夜特急3部作は、第1便、第2便が出てしばらく(かなり)間をおいて第3便が発行されたはずであるが (第3便を楽しみにしょっちゅう本屋を覗いても、待てど暮らせど発売されず、忘れたころに発売された覚えがある)、 著者があとがきで言っているように、1、2、と3、の間には何と6年の年月が空いている。
内容もそれに応じて、若く熱血的なハイテンションな前半と、妙に醒めた後半に分かれているのである。
文章や思索的には後半が上質というべきところかも知れないが、同時代体験という読み方では圧倒的に前半が面白いのだ。

明日を知れぬ旅の期待と不安、自由と孤独、それら全てを我知らず謳歌している「若さ」がここにはある。
そしてそれは、無鉄砲なバックパッカー旅へのエネルギーの源泉なのである。
そのような「蒼い孤独」無くしてこのような旅の真価は感じ得ないのではないか。

その点がメディアがお膳立てするインチキ旅企画の一番インチキなところではないだろうかと思う。