青海マイコミ平探訪記

さて、9月中旬のある日、糸魚川駅前からジオサイトツアーのマイクロバスに乗り込む。

今回のツアー客は20名。
ガイドさんは通常2名のところ、今日は豪華3名とのこと。
糸魚川フォッサマグナミュージアムの学芸員の先生と、地元の自然環境保護員の方、新潟県職員の方。
それに旅行社の添乗員さんと運転手さん。
補助席までフル動員して、マイクロの定員いっぱいまで詰め込まれるが、これには後にわかる理由があった。

市街地から黒姫山の山ふところに入ったマイクロバスは、明星セメントの採掘構内を抜けて急な林道へと登ってゆく。
すれ違い不可の曲がりくねった急坂。
このマイクロバスのサイズで無ければ無理だろう。

途中、対岸に旧砕石場切羽の見える視界の開けたところでストップ。
対岸に福来口大鍾乳洞の洞口が見える見学ポイントだ。

福来口鍾乳洞を望む向かい側でネイチャーガイドさんの説明。 糸魚川フォッサマグナミュージアムの学芸員をされている方。

福来口鍾乳洞を望む向かい側でネイチャーガイドさんの説明。
糸魚川フォッサマグナミュージアムの学芸員をされている方。

>>> 福来口鍾乳洞


山上へ

さらにどんどん高度を上げ、視界の開けた場所へ。
天気に恵まれ、糸魚川の町と日本海が見渡せる。
海が意外な近さにある。

山上から見下ろす日本海

山上から見下ろす日本海と糸魚川市街

逆に山の方を見上げれば、沢の源頭にスラブ状の岩場が。
スラブの岩に流れる滑沢の水がギラギラ光るので、「ギラ」と呼ばれる地名だという。
豪雪地特有の、雪崩に磨かれた岩場である。

大ギラ

大ギラ

小ギラ

小ギラ

国土地理院の地形図にも記載があった

国土地理院の地形図にも名前の記載があった

さて、カーブと急坂の連続がいよいよ終わったところで、マイクロバスのサイズの最大の理由が出てきた。
田海川側へ小尾根を抜けるトンネルの幅が、マイクロバスいっぱいなのだった。
何故か途中からだんだん狭くなるトンネルなので、出口では幅ぎりぎり。

何故か途中から狭くなるトンネル。 入り口に鍵つきゲートが設けられ、無断侵入の車が来てもこの先には入れない。

何故か途中から狭くなるトンネル。
もちろん、鍾乳洞ではありません。
入り口に鍵つきゲートが設けられ、無断侵入の車が来てもこの先には入れない。

トンネルを抜けると田海川沿の渓谷沿いの道となる。
渓谷といっても大雨のとき以外は涸れ沢となっている。
バスには荷物を載せて先行してもらい、沢沿いの地形や植物を観察しながら徒歩で林道終点に向かう。
その谷の向こう岸に石灰岩の岩壁が見えてくると、その途中に「西姥が懐」の横穴鍾乳洞の洞口が開いていた。

>>> 西姥が懐


異界への入り口「浄土門」

谷は次第に狭くなり、道脇にはいろいろな花が咲いている。

徒歩で林道終点に向かう

徒歩で林道終点に向かう

行く手両側に、岩壁が高くそびえてくると、マイコミ平の入り口となる「浄土門」である。
「異界」?「魔界」?マイコミ平への結界を張っているかのような、U字谷のような地形だ。

何故このようなU字谷のような地形ができたか不明だが、一説によると過去大昔にこの川の水流沿いに巨大な横穴鍾乳洞が存在し、その天井が崩落し風化した名残りという考えもあるそうである。

浄土門。 異界マイコミ平への結界となっているのか。

浄土門。
異界マイコミ平への結界となっているのか。

浄土門の石灰岩岩壁。

浄土門の石灰岩岩壁。

いよいよ、林道終点。
ジオサイトの立派な看板と、ツアー期間中仮設されたトイレが用意されている。
看板の丸太には、熊が引っ掻いた痕がついている。

広場でお弁当を食べ、これからいよいよ山道に入ってゆくこととなる。

丸太に熊の引っ掻き痕が。 熊は新設された人工物に興味を示すそうである。

丸太に熊の引っ掻き痕が。
熊は新設された人工物に興味を示すそうである。

林道沿いや広場の周りは日当たりを好む植物を中心に、遅い季節ながら野山の花がいろいろ見られる。

>>> マイコミ平の植物


マイコミの森へ

いよいよ森の中へ分け入ってゆく。

マイコミ平ジオサイト

マイコミ平ジオサイト

サワグルミやミズナラ、ブナなどが多い樹林の中を少し行くと、すぐにまず「大マイコミ」が現れる。

一段低く掘られた沢の河原が涸れた状態で広がっているが、対岸の岩場の下に流木の詰まった小さな洞穴がある。
これが、一番有名な吸い込み穴「大マイコミ」となっていて、左右に伸びる沢はどちらを向いても上流。
つまりこの一点の排水口に向って流れてくるのだ。

そしてこのぱっとしない穴こそが、日本3位の竪穴「奴奈川洞」の入り口となっている。

正面岩壁の脇に立つ人の右横の割れ目が大マイコミのポノール

正面岩壁の脇に立つ人の右横の割れ目が大マイコミのポノール(吸い込み穴)

>>> 大マイコミ(奴奈川洞)


カルストの森

このあたりの森から、ミズナラやサワグルミの巨木が多くなってくる。

サワグルミの巨木。 この森では、ミズナラをサワグルミが駆逐しつつあるということである。

サワグルミの巨木。
この森では、ミズナラをサワグルミが駆逐しつつあるということである。

さて、樹林の道をさらに奥へ進むと森はさらに深くなり、次第にあちこちに岩の露頭やドリーネらしき地形が現れてくる。

石灰岩の露頭があちこちに。 樹木はサワグルミが多い。

石灰岩の露頭があちこちに。
樹木はサワグルミが多い。

やがて、小さな沢地形を少し下っていくと、小川の流れが岩の下に消えてゆく「小マイコミ」がある。

小マイコミは、狭い森の奥にある。

小マイコミは、狭い森の奥にある。

穴の周りを最近整備したとのことで、材木で足場を作ってあったが、中を覗くと穴の中を水が流れている。
ここは水の先の洞穴は確認されていないが、きっと隠れた竪穴があるに違いない。

足場で囲っているので判りにくいが、岩場の下に水が流れ込んでいる。

足場で囲っているので判りにくいが、岩場の下に水が流れ込んでいる。

この水がどのようにしてどこに流れていくのか、誰も知らない。

この水がどのようにしてどこに流れていくのか、誰も知らない。

この「小マイコミ」のそばにちょっとした広場があって、背の高いサワグルミが何本かたっているが、低い位置の幹がへびのようにうねっている。
若木の時代にこの地の豪雪に圧し潰され痛めつけられた名残りが、あちこちの木に残っているそうだ。

幹の曲がりくねったサワグルミ。 豪雪の威力を見せつけられる。

幹の曲がりくねったサワグルミ。 豪雪の威力を見せつけられる。

マイコミ平と栂海新道の父、故小野健さんが建てたという解説板。 マイコミ平についての説明は、こちらをしっかりよく読んでください。

マイコミ平と栂海新道の父、故小野健さんが建てたという解説板。
マイコミ平についての説明は、こちらをしっかりよく読んでください。

道はさらに奥深い山中へと向かい、急斜面を越えたり涸沢を渡ったり、鎖場を登ったり、俄然険しくなる。
ミニドリーネが道脇にあったり、細い道自体が左右からのドリーネの侵食を受けたエッジ上だったり、急に複雑怪奇な地形となってきた。

道脇のミニ・ドリーネ

道脇のミニ・ドリーネ

急坂や沢をどんどん渡る

急坂や沢をどんどん渡る

大きなドリーネらしき窪地へ下る

大きなドリーネらしき窪地へ下る

大きなドリーネとおぼしき地形がここかしこに見られるが、樹林とヤブの中なので実態がよく判らない。
足を滑らしたらドリーネの急斜面かと思うと、実にイヤな感じ。

そのうち、急な下りを下っていくと、それは大きなドリーネのひとつで、行く手には岩場に開く洞穴が現れた。
これが「通天洞」である。

通天洞

通天洞

>>> 通天洞


巨大なドリーネに向かう

通天洞を見学したのち、途中まで引き返して、また狭い急登を登ってゆく。

これより先は、いよいよ危険な洞穴のエリアに。

これより先は、いよいよ危険な洞穴のエリアに。

細い尾根上の上から、道は突然、急な崖を下るルートに。

突然、「急坂」ではなく「崖」を降りるルートが。

突然、「急坂」ではなく「崖」を降りるルートが。

ここが、ルート上最大の難所であり見どころでもある、「千里洞ドリーネ」なのであった。

ドリーネの側壁の崖を恐る恐る下ってゆく。

ドリーネの側壁の崖を恐る恐る下ってゆく。

>>> 千里洞ドリーネ


魔界の竪穴

ドリーネの特異な植物相を観察したあと、対岸の細い尾根に上り、その先の窪地に向かう。

その窪地の中には地獄の竪穴、あの青海千里洞の洞口がぽっかりと開いていた。
すなわち、千里洞は千里洞ドリーネの底ではなく、その隣の双子の小さなドリーネに開いているのだった。

狭い斜面の先には、ついに千里洞の洞口が。

狭い斜面の先には、ついに千里洞の洞口が。

>>> 青海千里洞


そこいらが穴だらけ

千里洞の洞口前から、さらに奥に狭い道を登ってゆく。
しばらく行くと道の脇に冷気を吹き出す小さな風穴があいていた。
このへんの地下は穴だらけなのか。

道脇にある風穴。 けっこうな勢いで冷風を吹き出している。

道脇にある風穴。 けっこうな勢いで冷風を吹き出している。

そのすぐ先には、人が入れる程の横穴が開いていた。
特に案内はないが、後で調べるとこれは「橘洞」という小鍾乳洞らしい。

白蓮洞のすぐ手前の道わきに開口する

白蓮洞のすぐ手前の道わきに開口する

>>> 橘洞


日本一の竪穴へ

そのすぐ先、先行していた先頭が、どうやら白蓮洞に到着したようだ。
どれだけすごい巨大な洞穴だろうと思いきや…

ついに、ツアー最奥の白蓮洞に到達したようだ。

ついに、ツアー最奥の白蓮洞に到達したようだ。

>>> 白蓮洞


小川を吸い込む新マイコミ

白蓮洞の見学を終えると、そのまま元の道を引き返す。

千里洞の前をまた通って、千里洞ドリーネの底を通りドリーネの側壁の崖の鎖場をよじ登り、もと来た道をずっと引き返してゆく。

帰りは同じ道を引き返し、あの崖登りを行かなければならない。

帰りは同じ道を引き返し、あの崖登りを行かなければならない。

帰りはまた、あのドリーネの底を横切り側壁の崖を登り返す。

帰りはまた、あのドリーネの底を横切り側壁の崖を登り返す。

戻る途中、道の分岐で脇道に入る。

時間がまだあるので、「新マイコミ」にも立ち寄ることに。

沢沿いの道を行き沢を渡る。 水量が少ないのでたすかる。

沢沿いの道を行き沢を渡る。 水量が少ないのでたすかる。

>>> 新マイコミ


こちらの世界への帰還

これで全行程を終え、バスの待つ出発点に戻る。

このへんの森の中の道自体は単純で困難なところは何もないが、尾根筋や沢筋がはっきりしない方向感覚がつかみにくい森なので、ノーガイドで放り出されたらまさにあちこち迷い歩くはめになるかも。

黒姫山の陰で夕色が感じられるようになったころ、全行程を終えバスに帰る。

黒姫山の陰で夕色が感じられるようになったころ、全行程を終えバスに帰る。

今日の行動範囲は、地図上で見れば、実はたかだか500m四方ぐらいの狭い範囲の中を3時間ばかり、うろうろしていただけなのだが、一日歩いてきたような感覚で、普通に日帰り登山をして帰ってきたぐらい疲れた。

狭く滑りやすい急斜面が多いためだが、同じ足場の悪い道でも、普通の山歩きではスリップしそうな崖でも何とも思わないところが、ここでは意識のどこかに常に竪穴の恐怖がつきまとっている。

魔境という先入観がそうさせるのは自分だけかもしれないが、実に濃密な時間ではあった。

バスの待つ車道まで無事戻り、帰路に。

バスの待つ車道まで無事戻り、帰路に。

やはり、思ったより疲れた方は多かったようで、下山のバスでは多くの方々が爆睡されていた。
ガイドいただいた皆さまもお疲れ様でした。


「秘境」であるマイコミ平は、勝手ながらやはりいつまでも「秘境」であってほしい気がするし、同時に本当に興味のある人には順当に開放されるべきだし、それらと保全・安全をすべてクリアするには、やはりこのような「エコツアー」形式が望ましいのだろう。

ただ、石灰岩開発が目の前で行われていることを考えると、県だけでなく国の何らかの保護区指定が早く必要だと思う。
白神山地のように国の自然環境保全地域にしてほしいものである。


ここまで長々読んで頂いた方も、誠にお疲れ様でした。
これにて全巻の終わりでございます。

2014 猫仙人