深夜特急 沢木 耕太郎
新潮社 1986(第1便・第2便)〜1992(第3便)
一連の貧乏旅行モノ、ヤラセTV番組によって存在が有名になったような気がする。
所謂「バックパッカー」のバイブル的な本であるが、私にとってはバイブルというより、もっと同時代的存在で、 一時の自分の未完の旅を代弁してくれているような近しさを覚える。
普通、この手の旅本では、インドあたりが一番面白いものだが、沢木のこの旅では「第一便・黄金宮殿」の香港から東南アジアが圧倒的に面白い。
マカオでのギャンブルのくだりは本当に面白い境地にはまっている。

全体にいえるのは、この深夜特急3部作は、第1便、第2便が出てしばらく(かなり)間をおいて第3便が発行されたはずであるが (第3便を楽しみにしょっちゅう本屋を覗いても、待てど暮らせど発売されず、忘れたころに発売された覚えがある)、 著者があとがきで言っているように、1、2、と3、の間には何と6年の年月が空いている。
内容もそれに応じて、若く熱血的なハイテンションな前半と、妙に醒めた後半に分かれているのである。
文章や思索的には後半が上質というべきところかも知れないが、同時代体験という読み方では圧倒的に前半が面白いのだ。
明日を知れぬ旅の期待と不安、自由と孤独、それら全てを我知らず謳歌している「若さ」がここにはある。
そしてそれは、無鉄砲なバックパッカー旅へのエネルギーの源泉なのである。
そのような「蒼い孤独」無くしてこのような旅の真価は感じ得ないのではないか。
その点がメディアがお膳立てするインチキ旅企画の一番インチキなところではないだろうかと思う。
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