新版・登山技術

新版・登山技術 岡部一彦
山と渓谷社 昭和47年

「丹沢ゴキブリ衆」など特異なキャラクターで各種山岳著をものされている、RCC2の重鎮、岡部氏の技術書。

高校時代に入手し、その当時でも具体的内容は古くなっていたが、たいへん参考になったし隅々まで読んだ。
何よりも岡部氏一流の道具哲学が随所に痛快に記されていて面白い。
新らしもの好きや半可通に対する痛烈な批判的記述や、逆に「上には上がいる」式のベテランの話など、何か武士道のような発想が愉快である。

ある意味で、後年のカタログ文化的な解説書と正反対とも見える本である。
しかし反面この本も、道具の案内では具体的商品名や価格が出ているなどカタログ的でもある。
結局のところ、メーカーなどに気を使わず自分の思うままに書けるかどうか、著者のキャラクター性によるのだろう。

道具の内容や一部技術など、今から見ればかなり古くなっているが、今読んでもなかなか面白い。

バックパッキング入門

バックパッキング入門 芦沢一洋
山と渓谷社 昭和51年(1976)

今は亡き芦沢一洋氏によるエポックメイキングな本である。

この頃まで、日本で本格アウトドアといえば即ち登山であり、それもフランスを中心とする、いわゆるアルピニズムが中心だった。
というより、「アウトドア」なる言葉さえ無かった。

ちょうどこの本が出る数年前から、日本にもアメリカ式の登山やキャンプの用品が入ってきていて、ヨーロッパ一辺倒から変わりつつあった。
シュイナードのクライミング用品、ケルティーのパックフレーム、ジャンスポーツのドームテント、シェラデザインのマウンテンパーカなど、それまで無かった感覚の用品が次々と現れて従来の「山屋」を戸惑わせたのである。

同時に「バックパッキング」なる概念が入ってきて、登山を包括しつつ従来の登山と違う、といってワンダーフォーゲルなどとも違う徒歩旅行の形が徐々に認められるようになってきたのだ。
ただし、コマーシャルベースでのバックパッキングは、用品を中心に形としてのスタイルは普及したものの、その本質となった哲学までは普及したとはいい難い。

ベトナム反戦、ビートニクから尾をひくヒッピー、コミューン、カウンターカルチャーの一連の流れの中にそれは現れるべくして現れてきたのだが、日本ではパックフレームなどのギアスタイルの流行に留まった感がある。
その本質の概念の普及が見えだすのは、日本ではむしろバブル崩壊後の90年代ではなかろうか。

この本は見事にそれらの「モノ」の本である。
アメリカ流を徹底した、物質文明の真髄のようなカタログ本であり、また徹底的な横文字の羅列に辟易された面があるが、それもアメリカの概念であるバックパッキングを理解するうえで必要と著者は思ったのであろう。

その成果の一面は見事に現れて、その後の日本の登山用品カタログは様変わりしてしまったのだ。
ヨーロッパ言語が殆どを占めていた用語も英語主体になってきた。
「アウトドア」という言葉と概念も普及した。
自然や環境に対する接し方も変わってきた。

「モノ」から入る哲学。
世界一の物質文明の超大国ならではのアプローチだったといえるのではないだろうか。